国内有数の総合重工業グループとして、創業170年の歴史を持つIHI。今まで新卒採用からの人財育成に注力してきた一方で、現在の組織・事業に変革をもたらす「変⾰⼈財」の獲得に注力しています。2023年に発表された「グループ経営方針2023」において成長事業に位置付けられた航空・宇宙・防衛事業領域(以下、空領域)。ミッションの一つとして掲げられたのは「空領域の成長と変革を牽引する変革人財を100名採用せよ」という、これまでの同社の中途採用の状況から比べると非常にチャレンジングなものでした。結果、中途採用人数は前年比にしておよそ5倍の人数、年間で110名の人財を採用するに至っていますが、そのプロセスの一つとして注力した、採用ブランディングプロジェクトの全貌、その成果と今後の展望までを本プロジェクトをリードした舟見様・田邊様にお伺いしました。「採用ブランディングプロジェクトにゼロから取り組みたいがどうすれば…」とお悩みの方にも参考になるので、ぜひ最後までお付き合いください。
「変革人財」採用の背景とブランディングに取り組む想い
まず、キャリア採用に注力するようになった背景について教えてください。
▲航空・宇宙・防衛事業領域 企画管理部 総務人事グループ グループ長 舟見様
舟見:IHIの事業領域は、「資源・エネルギー・環境事業領域」、「社会基盤事業領域」、「産業システム・汎用機械事業領域」、「航空・宇宙・防衛事業領域」の4分野に大別されますが、そのなかでも「グループ経営方針 2023」に基づく中期経営計画で、成長事業として位置づけられたのが「航空・宇宙・防衛事業領域」です。“空領域”と呼ばれる同分野においてIHIは、日本のジェットエンジン生産でトップシェアを誇り、ロケットに関しても開発から打ち上げまでさまざまな分野に携わっています。
同分野は今後もさらなる成長が見込まれていますが、新技術における価値創造やDXに不可欠な人財が圧倒的に不足していました。世界のライバルに追いつき、追い越すためにIHIに求められているのは、「組織・事業にさらなる進化をもたらす「変革人財」です。“空領域”を次のステップへ導くスキル・経験を持った人財。つまりこれまでのIHIにはいないような専門性やスキルを有し、かつ日本のモノづくりやこれからの空の領域をアップデートする想いを秘めているような方を、採用することで、事業と組織(カルチャー)の変革を成し遂げたいと考えています。
田邊:これまでの新卒採用は、育成することを中心にしていた組織で、“空領域”に入社した社員はそのまま同領域でキャリアを積むことが一般的でした。ただ、それゆえに組織の同質化が課題となることも現実問題ありまして、空領域が実現したい新価値・新産業を創出する組織をつくるためには、社外の方の視点、知恵、力が必要だと考えております。この文脈において、今のタイミングで採用ブランディングに取り組むことには大きな意味がありました。
▲航空・宇宙・防衛事業領域 企画管理部 総務人事グループ 田邊様
2023年度採用プロジェクトにおける目標はどのようなものでしたか?
舟見:「“空領域”で100名採用」を掲げ、採用活動に取り組みました。2022年度のキャリア採用実績と比較すると約5倍にも及ぶ採用人数なので、正直チャレンジングだと思っていました。だからこそ、「普通じゃないやり方はないか」を模索していました。
田邊:中途採用は、エージェントを中心にした採用手法でした。舟見が言うように、「これまでのやり方では、これからのIHIはつくれないかもしれない」だからこそ、その方法を模索していましたし、他にもオペレーションなどの悩みは尽きませんでした。
No Companyのリサーチやデータから見えた、採用市場におけるIHIの現在地の把握と戦略・戦術設計
キャリア採用における100名採用に向けてのファーストステップを教えてください。
舟見:経営とも会話をするなかで、「新しいことをするべき」ということは意見や意識が合っていたのですが、「じゃあ何をするんだ」ここの解像度が自社だけでは上がってこなかったことが正直なところです。採用キャンペーンなのか、交通広告なのか、このあたりで実行可能なパートナーとして、博報堂と、グループの中でも採用に強みを持つNo Companyに相談しました。
田邊:最初に想定していたのは交通広告などのマスコミュニケーションですが、No Companyさんとの打ち合わせで新たな発見がありました。なかでもインパクトがあったのは「採用市場におけるIHIの現在地」です。他社の具体的な取り組みや、採用市場や求職者について、IHIについてのリサーチなども踏まえての提案を通じて、私たちとしても自社に足りないこと、やるべきことが浮き彫りになっていったのです。あとはマスコミュニケーションという手段よりも先に、こうした戦略を描くことが重要だということも貴重な気づきでした。IHIにとって最低限必要な“標準装備”を理解することで、どのように採用市場で戦っていくべきなのか重要な示唆を得ることができました。データに基づいて提案していただいたので、納得感もありましたね。
「ストラテジーやクリエイティブの視点で」No Companyがもたらした価値を教えてください。
田邊:採用ブランディングの戦略にもひもづく採用コンセプト「We are SKY TECH CHALLENGERS.」は、IHI空領域が「こうありたい」と考えていた姿をピンポイントにわかりやすく言語化していると思います。仕事に対する情熱や夢、私たちが向かうべき現在と未来、それがこの言葉に込められていると感じましたし、これまでのIHIでは発信してこなかった視点でのメッセージだったので斬新でした。今回の中途採用プロジェクトを振り返っても、これらの良い意味での「IHIらしくなさ」が、「変革人財」の採用には必要だったと思います。
舟見:採用コンセプトの策定にあたっては、航空・宇宙・防衛事業領域のメンバー数人と当時領域長だった盛田(現副社長)へのヒアリングから、有機的な情報(想いやカルチャー)だけでなく、これまでの歴史や業界の課題など全方位的なヒアリングからの言語化というプロセスを経ていることもあり、社内的にも納得度が高いものだと思いました。「知る人ぞ知る」という会社から突き抜ける。そういう期待感はありましたし、今もあると思います。
▲キャリア採用コンセプトムービーのサムネイル
田邊:「We are SKY TECH CHALLENGERS.」という言葉について、少し余談なんですが、23年に立ち上げた生産・製造現場の包括的なDXを推進するトランスフォーメーションセンターでも、期せずして同様の方向性のスローガンが掲げられたりしているので、あらためて社内での「挑戦の機運」が相乗的に上がってくることに期待が高まっています。
「いい意味でのらしくなさ」とありましたが、例えば「ビジュアル視点」での価値はどこにありましたか?
舟見:今まで見たことない、言ったことのないアングルのメッセージとビジュアルだったのですが、まずは経営層が「今までにないこと」をテーマに掲げていたことや、組織としての未来像、今すべき採用活動を伝えていたこともあり、社内の理解は驚くほどスムーズでした。この「今までにないこと」は今回のプロジェクトにおいて細部にわたるまで重要だったように感じており、視覚的な印象も少なからず寄与したと思います。
田邊:特設ページにおいても、社員のリアルな想いやビジョンにフォーカスしていたこともあり、社内でも好評でした。創業170年の会社にもかかわらず、組織変革に取り組み新たなチャレンジを続けている。それはこれまでとは違う文脈や意思を表現する、大胆かつ洗練されたデザインで、私たちの想いを表現していた。そのことを候補者の方々に視覚とメッセージで伝えたことに大きな価値があると思います。
プロジェクトを通じた実感や成果
現時点でのキャリア採用の成果を教えてください。
舟見:当初掲げていた100名採用から少し上振れし、110名程度、内定承諾をいただいている状況(2024年3月末日時点)です。航空機の型式認証についてご経験のある方、資格保持者がほとんどいない高度なセキュリティ資格を持った方、さらには今後のカーボンニュートラルの実現に向けて電動化技術のプロフェッショナルなど、いずれもこれからの組織・事業変革にとって新しい価値創出が期待できる方々ばかりです。こうした人財を採用できたのは大きな前進です。
田邊:目標の人数を超えられた背景として、IHIが採用に力を入れていることが候補者にしっかり伝わり、IHIへの印象が変わり始めているのかもしれません。まだこのあたり明確な手応えはこれからということもありますが、面接・面談上でも「100名採用の広告を見た」などの話や、動画を見た、といった話もありました。「変革人財」ということも明確に伝えていますので、こうした方々が徐々にコミュニケーションコンテンツに接触し、良好な態度変容に寄与しはじめている実感めいたものはあります。
舟見:あとはそもそもの話なのですが、採用活動において「空領域の情報」にフォーカスして外部に公開したのが、今回が初めての試みです。つまり、候補者がキャッチアップできる情報はせいぜい中途採用サイトやエージェントからの情報が主だったのですが、この情報のバリエーションと接点が格段に増えたことは大きな進歩かもしれません。
▲SNS広告で使用した実際のクリエイティブ
田邊:あと採用チームとして1年やってみての大きな手応えは「よりいっそう意志が明確になったこと」です。社内でも各種のプロジェクトを通じて採用に関する知見が深まり、関わりを通じて「複数のテーマで新たな取り組みができないか」など新たなアイデアも自然と生まれるようになりました。入社前に知っておいてほしい情報を発信するうえでも、制作したコンテンツは最大活用しながら、新しい切り口の施策も考えたいと思います。
今後のキャリア採用やそれに関わる広報活動で取り組んでいきたいこと、展望などがあればお聞かせください
田邊:社外向けの採用ブランディングに取り組むことはもちろんですが、インナーブランディングも並行して強化していきたいと考えています。新たにジョインする「変革人財」が、十分に力を発揮し、かつIHIにはない考え方、モノ・コトの見方、知識、技術をもたらすこと。そして、これまでのIHIを支えてきた社員たちも、キャリア入社メンバーに刺激を受けながら、相乗的に新しい価値創出をすることが、社会への貢献をするという立場をとるにしても重要なように思います。つまり組織づくりという視点で、両者が新たなシナジーを生み出せるよう、社内向けのコミュニケーションにも注力していきたいですね。
舟見:2023年度までの取り組みで、ようやく中途採用市場で戦えるようになったのではと思っています。でもここからです。世界に対して新しい価値を提案するためには、今まで以上に突き抜けていかなければならない。現場の社員同様に私たちも積極的に動いて、これまでにない新たな価値をつくっていきたいと思います。そういうドキドキ、ワクワクするような状況なんですが、この挑戦を面白がって真摯に向き合ってくれるパートナーとして、No Companyにはより一層期待しています。
■採用コンセプトサイト
https://www.ihi.co.jp/recruit/career/aerospace/special-contents
■タイアップ記事
https://www.businessinsider.jp/post-278772
■キャリア採用コンセプトムービー
【No Company担当者コメント】
IHI空領域の採用プロジェクトの話をいただいた時に思ったことは、「創業170年の企業で変革人財!?ましてや異業界人財などに向けたブランディングはただごとではない」と思いました(しかも100名採用)。ただ、今回まさに新価値・新産業に挑む社員の皆さまの声、当時領域長だった盛田さまからお伺いした、IHI空領域に脈々と受け継がれるDNA。そして空領域採用チームやいつも定例ミーティングに出てくださる皆さまの熱量を感じ、当初の重厚長大なイメージは単なる思い込みにすぎないし、すぐに取り払うべきものだと考えを切り替えました。 IHI空領域は、これからの空に挑む組織。事業発足からずっとベンチャーだったのです。どんなに難解な課題があったとしても、何度でも挑む。この仕事のカッコよさ、心意気を日本全国、世界中に、知ってほしい。そして挑み続けることに共感する人は、まだこの社会に無数にいるので、ブランディング活動を通じて企業と人のスタイルマッチに貢献していきたいし、組織を盛り上げるお手伝いを全力でしていきたいです。